漫画「中国誘拐村~世界の因習~」安武わたる作。
1990年代、中国の安徽省で起きた大規模な誘拐事件を題材にしたお話で、人さらいを生業にしている「誘拐村」の物語。
山奥の寒村でゾッとするような出来事が起こります。
「中国誘拐村~世界の因習~」のネタバレ
中国の安徽省にある誘拐村
その村では、トラックが着くと「おおい、さっさと手伝いに来い!」と村中総出で大忙しになる。
トラックの荷物は「人間」。村ぐるみで、外へ出ては人をさらい、売り飛ばすという仕事で寒村は潤っていた。
そこにいた名無しの女は、夫である金彦に「グズ!」と呼びつけられ、さらってきた人間たちの世話をしていた。
その日預かった3人の子供たちには、
「泣くんじゃない。泣いたってムダだからね」
と告げると、泣き止んだ。
さらわれてしまった以上、もはや彼らの運命は決まっていた。
子供のいない夫婦の養子縁組なら、まだ運がいい。
だが、奴隷のように工場でタダ働きさせられるか、それともわざと怪我をさせられて哀れな物乞いに仕込まれるか、スリにさせられるか。女の子であれば、もっとひどい目に合わされる。
最悪の場合は、臓器売買組織へ流されてしまう。
年の近い若い女の世話
昨日やってきた女は村長のところへ行ったが、暴れて手がつけられず、年が近いから面倒を見てやれと申し付けられた。
女は楊暁芳と言った。
「あんた、助けなさいよ!」
命令するように言う暁芳に、女は朝ごはんを食べさせ、身の回りの世話をした。
「あんたはもう、家に帰れないんだから、あきらめな」
ふたりの会話を聞いていた村長がやってきて、
「そのとおりだ。店に売る前におとなしくさせんといかんのでな。
反抗しようなんて気が失せるほどに」
次の日には、暁芳はすっかりおとなしくなっていた。
誘拐村の事情とは
誘拐村は、10年前には飢饉で冬を越せないほど貧しく、村人たちは靴も履けないありさまであった。
しかし、村ぐるみで人さらいを仕事にするようになってからというものの、この辺一帯で最も豊かな村になり、今ではテレビも冷蔵庫もある。
村の老人は「ありがたい」と泣いて喜んでいるほどだ。
だから、暁芳は「あんたたち、異常だわ!」と罵ったが、女にとっては痛くも痒くもなかった。
女に同情し、名前をつける暁芳
暁芳は女もまた、人さらいにさらわれた子だったと聞き同情して涙を流した。
そして、名前がないという女に自分の名前から字をとって「長芳」という名を与えた。
ふたりは話をするようになり、長芳は暁芳がみなし子で自分と似た境遇だと知ると、ますます仲良くなっていった。
「一緒に逃げよう」という暁芳の言葉に、長芳は無理だろうと思いつつも「友達」の危機に見過ごせず、村を脱走した。
結末・暁芳の裏切りと正体
長芳は暁芳のために、何もかも捨てて共に逃げ出した。
途中で村人たちに捕まってひどい目にあわされたが、暁芳があらかじめ盗んだ携帯で呼び出した公安がヘリコプターで助けに来てくれた。
村人たちは捕まり、助かったふたりだったが、公安が「暁芳お嬢さん!」と呼んだ。
暁芳はじつは、政府高官の娘だった、というのだ。親に反発して家出したところ、人さらいにあってしまったのだという。
それは長芳が聞かされた話とは全く違っていた。長芳は彼女が自分と同じ「かわいそうなみなし子」だと思っていたのに・・・
そして暁芳は、もう長芳に用はないとばかりに「そう言えばあなたが親身になってくれると思ったから」と去って行こうとした。
自分を騙して、友情と好意を利用して脱出をたくらんだ暁芳に、長芳は思わず・・・
感想
人さらいの村で、誘拐されてきて言いなりに手伝って生きてきた長芳は、暁芳との出会いで初めて「友情」というものを感じます。
ですが、それは暁芳が「逃げ出す」ために、長芳を手なづけてあたかも「友達」であるかのようにふるまっていただけ。
暁芳は本当はお偉いさんのお嬢様で、親と喧嘩して家出しただけ。「こんなことすべて忘れてしまいたい」と、長芳との友情もなかったことにしようとしました。
きっと、それが長芳にとって絶対に許せなかったことなのだと思います。
暁芳との友情を永遠にするために、長芳がとった最後の行動・・・哀しすぎる結末ですが、物語としてはきれいに収まっているように感じました。
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