安武わたる作の短編漫画集「中国誘拐村~世界の因習~」の四話目に収録されている「鬼子母神」のあらすじや感想をご案内します。
紀元3世紀の古代日本において、王の妻が息子と共に奴婢(奴隷階級)にされ、筆舌に尽くしがたい屈辱を味わったのち王宮に返り咲いて冷酷な影の支配者になるという哀しい物語です。
「中国誘拐村~世界の因習~鬼子母神」のネタバレ
王の崩御と第4妃の転落
那可国では、大掛かりな王の葬儀が執り行われていた。
弔いの炎を見ながら、第4妃の清苗(キヨナ)は、息子である第5王子・刀務(トゥム)と共に葬送を見送っていた。
もともとは奴婢の身分だったキヨナ、王の手つきとなり息子を授かったことで妃となった経緯があった。
だが、王が亡き今、残された第一〜三王妃がやってきて、キヨナに対して「奴婢に戻れ」と命じて、息子とともに王宮を追い出された。
幼馴染と再会する清苗
れっきとした王の子であるトゥムまでこんな目にあわされるなんて・・・!
キヨナは不安でいっぱいになりながら、奴婢の粗末な住まいで息子を慰めていた。
そこに、幼馴染の瀬多(セタ)がやってきて、なにかと世話をしてくれた。
「ありがたいわ、セタ。よく忘れずにいてくれました」
まだ少女だったころ、住んでいた郷が那可国に敗れてキヨナとセタは、奴婢となり、可憐な美しさを気に入った王にキヨナはさらわれたのだった。
最初は王に反発を感じたキヨナだったが、息子を授かり母となったことで自分の運命を受け入れた。
奴婢として使役され、屈辱を味わう
もともと奴婢の身分だったとはいえ、王の元で貴人のような暮らしになれてきたキヨナにとって、奴隷の労働は過酷すぎた。
女には向かない材木運びをわざとさせられ、ろくな食事も与えられない。
トゥムはセタがうまく軽い労働にふりわけてくれたので安心していたが、キヨナを狙うものたちがいた。
第一王妃の差し金で、薄汚い男たちが「この女を好きにしていいと言われた」と、やってきたのだ。
屈辱を与えられたキヨナを、第一王妃はあざ笑うためにわざわざ見にやってきて、「ホホ、これがあの女の本来の姿なのよ」と蔑んだ。
くやしくてたまらない・・・だが、息子の命を人質にされている以上、逆らうことはできないのだった。
第一王妃の息子の事故
第一王妃の息子であり、新しい王となったイアクは、興味本位でキヨナを見物にきた。
自分の父親が寵愛していた若い妃が、どんな女なのか見に来たのだという。
イアクに追われて逃げるキヨナは、「どこまで人をもてあそべば気が済むの!」と怒り、イアクを谷底へ突き落としてしまった。
それは半ば事故のようなものだったが、イアクは谷底で野犬にくわれてしまい、第一王妃はショックのあまり気が触れてしまう。
そしてつぎの王をかつぎあげるために、政権争いをしていた大臣のシカジが、キヨナとトゥムの後ろ盾になると迎えにきたのだった。
結末・鬼になるキヨナ
やっと元の身分に戻ったキヨナとトゥムだったが、王妃たちからの嫌がらせがトラウマになっていたキヨナは以前のような優しさを捨て、冷酷になっていく。
そしてほかの王妃たちが息子の命を狙っていると知り、息子を守って王にするため、キヨナは自らの手を血で染めることに決めた。
事故を装ってライバルとなる王子たちを消し去り、呪いの人形をつくったと疑いをかけてもうひとりの王妃も追い出した。
「今の母上は、なんだかコワイ」
息子にそう言われてしまうほどに、キヨナはすっかり変わってしまい、清らかで優しいキヨナを愛していたセタは去っていこうとする。そしてトゥムもまた、母におびえて捨ててしまい・・・
感想
もともとは優しい女性だったのに、「我が子を守る」という母の強い思いがゆえに「鬼」に変わってしまいました。まさに、「鬼子母神」そのものです。
幼馴染で恩人のセタも去り、息子からも見捨てられ、やがて国は台頭してきた邪馬台国の卑弥呼によって滅ぼされてしまいます。
キヨナの詳しいその後ははっきり描かれていませんが、よく似た女性が罪滅ぼしのように子供たちの世話をし続けた・・・という終わり方でした。
古代の雰囲気ってすごく好きで、古代日本を題材にした漫画があるとすぐ読んじゃいますね。
安武わたる先生の短編漫画集「中国誘拐村~世界の因習~」は、4作品も入っていて、とても読み応えがありました。
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