ミズタマ作 漫画短編集「片想いの牢獄で」の2話 運命のひとのネタバレです。
散文詩のように切り取られたシーンがたくさんあり、一番わかりづらいお話ですが、味わいがあります。
片想いの牢獄でのあらすじ 第2話
コンビニで店長をしている主人公・航平。現在、婚約中で結納間際。
新人アルバイトとしてやってきた、舞子 灯(舞子が名字。紛らわしいけど)に惹かれてしまう。
バイト後、まるで「こちらに来てほしい」というように、マックで窓の向こう側から航平を見ていた舞子に「彼女は僕の運命の人」と直感し、妄想が止まらなくなっていく。
あの子は自分のものだ、と思い込み、表面上は「ただの優しい上司」を演じながらも熱く舞子を見つめ続ける。
ある日、舞子の父親が店先で金をせびりに来ていた。
会話の流れから、舞子の両親は別れており、金遣いの荒い父親はしょっちゅうタカっていることがわかる。
そして舞子が断ると「じゃあ母親のところにいく。どうせ男連れ込んで迷惑してんだろ?」と父は告げる。
それを聞いて、航平は舞子の母親が自宅でいかがわしい商売をしていると考え、舞子もまた同じことをしていると思った。
バイト中、上司が航平に古いゲーム機をくれたのがきっかけで「一緒にやらない?」と舞子を誘い、彼女の部屋でふたりきりになる。
ゲーム、というのはただの口実。
舞子もまた、航平に惹かれており、とてもいい雰囲気になってきた。
だが、舞子はとても初々しくて航平は「初めて?」と、うろたえてしまう。
そして、部屋から逃げるように飛び出していった。
あとに残された舞子は、別室にいた母親に「下手だねえ、正直に言うなんて」とあざけって・・・
第2話の結末
バイトに来なくなった舞子のもとを訪ねた航平。
母の虐待で眼帯をつけていた舞子が、「ワルモノになりきれなかった? 小悪党!ほんと小せえ!」と罵詈雑言で航平を煽る。
清楚で大人しい彼女と、とうてい同一人物には見えないほどに、すさんだ空気を漂わせる舞子。
罵られた航平が、部屋に押し込み暴れる音だけが響く。
「家の事情で辞める」と連絡をよこして去っていった舞子。
死んだ魚のような目になった航平は、結局「運命のひと」を綺麗さっぱり忘れて、婚約者と結婚し子供も生まれます。
妻が大掃除をしていて気づいた、ゲーム機。「捨てていい?」という言葉に、ためらいもなくいい笑顔で「うん、もういらないから」と言った航平。
第2話の感想
婚約者がいるのに舞子のことを「運命」だと感じる航平に、舞子も次第に惹かれ、片想いをするように。
和やかな散歩シーンの意味は、なんなんでしょうか?
航平と舞子が、手をつなぎながらのどかな美しい場所を、手をつないで散歩しているシーン。
ふたりとも笑い合いながら、どこからどう見ても微笑ましい仲のいいカップルに見えます。
これは『航平が舞子とどういうふうになりたいのか』という、理想の姿で「運命の人」である舞子とこんなふうに笑顔で手をつないで歩いていけたら幸せだろうな、という理想の化身ではないかと。
ですが実際にはこの幸せな妄想の裏で、親にボロボロに搾取されて荒んだ心になった舞子と、彼女に煽られて「ワルモノ」になった航平との地獄のような状態。
理想と現実のシビアさが、非常に残酷です。
航平が最初にためらったのはなぜかというと、「はじめて?」と気づいて怖気づいたからです。
じつは航平の中にはある種の「ズルさ」がありました。初めてなら、責任をとらなければならないという中途半端な良心に揺れていたのです。
舞子が言ったように「小悪党」な、ズルいところがある航平は、「実はおれ、彼女がいるんだ・・・」とモダモダ言い訳をしたかと思えば、キレて部屋に押し入ったりと「いい人」と言えない男。
航平は本当は、舞子と父親の会話から「すでに汚れた女」という認識をもっており、汚れているからこそためらいもなく手を出そうとしていたのでした。
しかしそれがすべて「勘違い」だと気づき、急に怖くなってプレッシャーを感じ、取り返しがつかなくなる前に逃げ出したのです。
航平は舞子との一件で「運命のひとなどいない」と悟ったのではないでしょうか。
青春のいっときの気の迷い、マリッジブルー。
ゲーム機は舞子との想い出そのもので、浮ついたロマンスはもういらないから捨てた、という大人の男性のあきらめとズルさの象徴だと言えます。
第3話の感想